東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)78号 判決
〔主文〕特許庁が昭和四五年六月一七日、同庁昭和三九年審判第一三〇九号事件についてした審決中、「本件登録第五三八五九九号商標の指定商品中寝具類について無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との部分を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。
〔事実〕第一 原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯
原告らは、登録第五三八五九九号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者であつて、この商標は、ゴジック体で「PYLEN」の欧文字を朱色で左横書きしてなり、旧商標法施行規則(大正一〇年農商務省令第三六号)第一五条第三七類(以下、同条による類別の表示を「旧第何類」という。)「寝具及び他類に属しない室内装置品」を指定商品とし、登録第五〇五六四二号商標に連合するものとして、昭和三三年九月二九日登録の出願がされ、同三四年七月三日その登録がされたものである。
ところで、被告は、昭和三九年三月一二日特許庁に対し、原告らを被請求人として、本件商標についてその登録無効の審判を請求し、同庁昭和三九年審判第一三〇九号事件として審理された結果、特許庁は、昭和四五年六月一七日、本件商標の指定五品中「寝具類」について無効とする旨の審決をし、その謄本は、同年七月一五日原告らに送達された。
二 本件審決理由の要点
本件商標の構成、指定商品ならびに登録出願および登録年月日は、前項記載のとおりである。他方、登録第四七四三二一号商標(以下「引用商標」という。)は、アンチック体風で「バイロン」の片仮名文字を縦書きしてなるもので、旧第二五類「ビニロンとカポックとの混合綿」を指定商品として昭和三〇年三月一〇日登録の出願がされ、同年一二月一三日その登録がされたものである。
1 本件商標と引用商標との類否についてみるに、両者の構成は、前記のとおりであるから外観上は互に非類似のものであるが、称呼については、両者を一連に称呼するときは、その語韻、語調がきわめて近似したものとなり、両者は、この点において誤認混同を生ずるおそれの充分な類似の商標である。
2 両者の指定商品の類否について。
本件商標の指定商品は、旧第三七類寝具及び他類に属しない室内装置品であつて、この商品中の「寝具類」の範疇に属する商品は、特許庁編「類似商品例集」(昭和三二年一一月再訂)に例示されているとおり、そのほとんどが完成品である。他方、引用商標の指定商品は、旧第二五類ビニロンとカポックとの混合綿であるが、この類には、前記「類似商品例集」によれば、紡績用の原料繊維ないしはその半加工品が広範に包含せられており、一応、両商品は類別を異にし、非類似の商品として取り扱われていたといえないでもない。
しかし、本件商標が登録された時点においては、旧第二五類の商品中の「模造綿」(化学繊維からなる綿をも包含する。)は、「木綿綿」と同様に「ふとん又は衣服用の綿」として使用されていて、結局、引用商標の指定商品である「ビニロンとカポックとの混合綿」は、旧第二五類中の「模造綿」の範疇に属するというべきである。
すると、本件商標が登録された時点においては、本件商標にかかる指定商品中の寝具類(蒲団、夜具、枕、座布団等)と引用商標の指定商品とは、その取引者、販売者を同一にする場合がすくなくないから、両者の指定商品は、寝具類の点において類似の商品と認められる。
したがつて、本件商標と引用商標とは、互に類似し、しかも両商標の指定商品においても、寝具類の点において類似するから、本件商標登録は、指定商品中「寝具類」については無効とすべきである。
3 原告らと被告との間における昭和三六年七月二八日付契約は、本件商標登録の無効事由とはなんらの関連のないものである。
三 本件審決を取り消すべき事由
審決は、本件商標の指定商品たる旧第三七類の「寝具類」と引用商標の指定商品たる旧第二五類「ビニロンとカポックとの混合綿」と類似する旨説示しているが、右は事実を誤認したものである。
すなわち、本件商標登録時において「ビニロンとカポックとの混合綿」が現実に「模造綿」として存在していたか否かは必ずしも明らかではないが、かりに存在していたとしても、これは、寝具類としては不向のものであり、また、当時、合繊綿一般の市場占拠率も小さかつたものであるから、「ふとん綿」として使用される例はほとんどなかつたものである。また、完成品である「寝具類」と半成品である「ビニロンとカポックの混合綿」とは、その取引方法、流通経路を異にする。
それゆえ、本件審決中主文掲記部分は、右の点について事実を誤認し、その結果本件商標と引用商標との比較を誤つたものであり、違法として取り消しを免れない。
第二 被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として、原告の請求原因事実は全部認めると述べた。
〔理由〕原告主張の請求原因事実は、被告の認めるところである。右争いのない事実によれば、本件審決中主文掲記の部分は、違法であつて取り消しを免れない。
よつて、原告の本訴請求はこれを認容する。
(青木義人 石沢健 宇野栄一郎)